宋(そう)の元祐(げんゆう)年間。遼(りょう)の皇帝・耶律洪基(やりつ・こうき)は、宋の国力が弱ったと見るや停戦の条約を破り、侵攻を開始。非道の限りを尽くす遼軍に蹂躙される宋の民――そんな惨状を見ていられず、武林の各門派や江湖の豪傑たちが立ち上がった。丐幇(かいほう)一の勇士・喬峯(きょう・ほう)も、その1人である。彼は、敵の兵が持っていた密書を手に入れたことで、国境に大きな危機が迫っていることを知る。武林大会に出席する丐幇幇主・汪剣通(おう・けんつう)に急を知らせるべく、喬峯は少林寺へと急ぐが…。
■キャスト
トニー・ヤン(楊祐寧)
バイ・シュー(白澍)
ジャン・ティエンヤン(張天陽)
ジャニス・マン(文詠珊)
スー・チン(蘇青)
ホー・ホンシャン(何泓姍)
チウ・シンジー(邱心志)
ガオ・タイユー(高泰宇)
スン・ウェイ(孫瑋)
■スタッフ
原作:金庸「天龍八部」(徳間文庫 刊)
総監督:ユー・ロングアン(于栄光)『蒼穹の剣』
脚本:ユエン・ズーダン(袁子弾)
撮影監督:グオ・ジーレン(郭智仁)
美術監督:ツイ・ヤオチェン(崔曜琛)『蒼穹の剣』/ユー・シアンジュン(兪向軍)
アクション監督:スー・シャオドン(司小冬)『蒼穹の剣』
作曲:ドン・ドンドン(董冬冬)『驪妃-The Song of Glory-』
衣装デザイン:モー・シアオミン(莫暁敏)
メイク:ファン・シアオイン(范笑吟)
VFX:ジュアン・イエン(荘厳)『長安二十四時』
遼の皇帝・耶律洪基(やりつ・こうき)は、宋の国力が弱ったと見るや停戦の条約を破り、侵攻を開始。非道の限りを尽くす遼軍に蹂躙される宋の民――そんな惨状を見かねて、武林の各門派や江湖の豪傑たちが立ち上がった。丐幇(かいほう)一の勇士・喬峯(きょう・ほう)も、その1人である。敵が持っていた密書を手に入れ、国境に大きな危機が迫っていることを知った喬峯は、武林大会に出席する丐幇幇主・汪剣通(おう・けんつう)に急を知らせるべく、少林寺へ…。
段誉(だん・よ)は、腸がズタズタになって死ぬという恐るべき毒・断腸散を飲まされてしまった。死を免れるためには、7日以内に鍾霊(しょう・れい)の父親を連れて、神農幇幇主・司空玄(しくう・げん)のもとへ戻らなければならない。道を急ぐ段誉の前に、一組の男女が。見ると、先日もめ事を起こした無量剣派の門弟ではないか。2人から逃げるうち、崖から転落してしまう段誉。深い谷底の、さらに下――地底の洞窟へとたどり着いた彼は、そこで世にも美しい“仙女”と出会う…。
疑り深い夫・鍾万仇(しょう・ばんきゅう)の逆鱗に触れることを恐れ、甘宝宝(かん・ほうほう)は自室に段誉(だん・よ)をかくまうことに。だが、あえなく事態は露見してしまう。しかも、段誉が段正淳(だん・せいじゅん)の息子だと知ると、鍾万仇の怒りは頂点に達するのだった。神農幇から娘の鍾霊(しょう・れい)を救うため、段誉と共に万劫谷(ばんごうこく)を後にする甘宝宝。しかし、妻に見捨てられたと勘違いした鍾万仇が2人の前に立ちはだかり…。
汪剣通(おう・けんつう)が馬大元(ば・たいげん)に託した密書――喬峯(きょう・ほう)の重大な秘密が記されているとあって、康敏(こう・びん)は内容が気になって仕方がない。その好奇心が、いずれ江湖を揺るがす大事件を巻き起こそうとは、彼女自身知る由もなかった。一方、段誉(だん・よ)は木婉清(ぼく・えんせい)と協力して、無事に鍾霊(しょう・れい)を助け出すことができた。しかし、喜んだのも束の間、今度は木婉清が大勢の追っ手に襲われてしまい…。
段誉(だん・よ)に弟子入りしろと迫る岳老三(がく・ろうさん)。何度断っても聞く耳を持たず、理屈の通じる相手でもない。困り果てた段誉は一計を案じるのだった。同じ頃、喬峯(きょう・ほう)は、丐幇(かいほう)の仲間たちを従えて雁門関(がんもんかん)へ。遼の軍勢と対峙する韓(かん)将軍に加勢しようというのだ。精兵ばかりをそろえた遼軍に、宋軍は数でも劣っている。この劣勢を跳ね返すため、喬峯は敵将・耶律涅魯古(やりつ・デルク)をおびき出す策に出る…。
無量剣派の門弟たちによって牢に閉じ込められてしまった段誉(だん・よ)は、暇に飽かせて北冥神功の修練を続けていた。ひょんなことから見張りの者と小競り合いになる段誉。その時、彼は北冥神功の不思議で奥深い力の一端を垣間見るのだった。一方、耶律涅魯古(やりつ・デルク)を生け捕りにし、遼軍を撤退させることに成功した喬峯(きょう・ほう)は、韓(かん)将軍たちと祝杯をあげていた。そこに、前幇主・汪剣通(おう・けんつう)が倒れたという知らせが…。
四大悪人が大理に向かっている――そんな情報を得た段誉(だん・よ)は、母に万一のことがあってはならないと玉虚観へ向かった。彼の母・刀白鳳(とう・はくほう)は、鎮南王王妃という地位を捨て、出家していたのだ。一度は拒んだものの、大理四大護衛たちの説得に応じ、鎮南王府へ戻ることを承諾する刀白鳳。しかし、一行の帰りを待ち受けていたかのように、岳老三(がく・ろうさん)が鎮南王府を襲撃する。段誉は「私に3手以内で勝ってみろ」と岳老三を挑発し…。
秦紅棉(しん・こうめん)と甘宝宝(かん・ほうほう)――段正淳(だん・せいじゅん)がかつて情を交わした2人の女性が、彼の前で顔を合わせた。嫁ぐと誓った段誉(だん・よ)が腹違いの兄だったと知って混乱し、いずこかへと去る木婉清(ぼく・えんせい)。そこへ葉二娘(よう・じじょう)と岳老三(がく・ろうさん)までが現れ、段誉を連れ去ってしまうのだった。一方、仮面をつけた不気味な老人と出会った木婉清は、その男に導かれるまま、山中に建つ怪しげな石室へ…。
段正明(だん・せいめい)たちと四大悪人が死闘を繰り広げる最中、突如として石室の扉が粉々に砕け散った。中から歩み出てきた段誉(だん・よ)は、1人の娘を抱えている。しかし、それは木婉清(ぼく・えんせい)ではなく、鍾霊(しょう・れい)であった。段延慶(だん・えんけい)の企みは潰えたが、彼が自ら語ったように行方不明になった太子であるなら、大理にとっては新たな難問が噴出したことになる。段正明は大理国の皇帝として、ある重大な決断を下す…。
毒に侵された段誉(だん・よ)を治療するため、段正明(だん・せいめい)は天龍寺の高僧たちの力を借りることを思いつく。しかし、彼らにも簡単に承諾できない事情があった。天龍寺の奥義書を狙う吐蕃の国師・鳩摩智(くまち)を迎え撃つべく、六脈神剣を習得中である枯栄(こえい)大師たちは、段誉を解毒することで内力を損なうわけにはいかないのだ。そこで段正明と5人の僧は、1人が1脈ずつ六脈神剣を修めて鳩摩智を撃退し、そのあとで段誉を治療することに…。
段誉(だん・よ)を連れて、参合荘の場所を尋ねて回る鳩摩智(くまち)。彼は段誉のことを“生きた六脈神剣の剣譜”として、旧友・慕容博(ぼよう・はく)の墓前で燃やそうというのだ。幸か不幸か、2人は慕容家の侍女・阿碧(あへき)に出会い、鳩摩智は案内を乞うことに。しかし、たどり着いた場所は、なぜだか阿碧の住まいだった。待ち構えていたかのように次々と姿を現し、鳩摩智を翻弄する慕容家の使用人や執事、大奥様――。段誉は、その3人の奇妙な点に気づき…。
のっぴきならない事情により、曼陀山荘の中庭をさまよい歩いていた段誉(だん・よ)は息をのんだ。かつて、とある洞窟で見た“仙女様”が目の前に立ち、言葉を発しているではないか。熱に浮かされたように走り出て、ひざまずく段誉。彼が仙女と見違えたその相手は、王語嫣(おう・ごえん)だった。騒ぎを起こした段誉は侍女たちに見つかり、山荘の女主人・李青蘿(り・せいら)の前へ突き出される羽目に。しかも、段誉が名乗ると、李青蘿は目の色を変え…。
少林寺七十二絶技の1つ、大韋陀杵(だいいだしょ)――玄悲(げんひ)大師は、自身の得意とする技によって命を奪われた。その下手人ではないかと疑われた慕容復(ぼよう・ふく)は、少林寺の高僧たちによる詰問を受ける。潔白を主張するものの、事件の当日どこにいたかを明言しない慕容復に対し、僧たちは疑いと苛立ちを募らせるのだった。そんななか、玄慈(げんじ)方丈は突然、慕容復に挑みかかる。手合わせの最中、玄慈の心中では、ある思いが確信へと変わっていた…。
丐幇(かいほう)四大長老の1人・奚山河(けい・さんが)と慕容(ぼよう)家家臣・包不同(ほう・ふどう)は、喬峯(きょう・ほう)に諫められ、矛を収めた。だがその直後、丐幇の仲間たちが合流したことで、事態は再び緊迫する。打狗陣(だこうじん)を破ろうといきり立つ風波悪(ふう・はあく)と包不同の動きをたやすく封じ、丐幇と慕容家との衝突を防いだ喬峯。力の差を痛感し、すごすごと引き揚げてゆく2人――それを見送る喬峯に、異を唱える者が…。
謀反の首謀者は全冠清(ぜん・かんせい)であった。しかし、何を問われても、彼ははっきりした理由を言おうとはせず、喬峯(きょう・ほう)の出自に原因があるというようなことをほのめかすばかり。そうこうするうち、杏子林(きょうしりん)には武林で名の知れた侠客たちが次々と集っていた。最後に姿を現したのは康敏(こう・びん)――殺された馬大元(ば・たいげん)の妻である。徐(じょ)長老に促された彼女は、夫が書き遺したという書状について話し始め…。
汪剣通(おう・けんつう)と馬大元(ば・たいげん)の書状。智光(ちこう)大師の証言。それらは喬峯(きょう・ほう)が契丹人であると告げていた。そればかりか、康敏(こう・びん)の口ぶりは、夫・馬大元殺しの下手人が、自らの秘密を暴かれまいとした喬峯なのだと言いたげである。「まさか、俺を疑っておいでか」――驚愕のあまり、言葉を失う喬峯。そこに割って入った慕容(ぼよう)家の侍女・阿朱(あしゅ)は、康敏の語る“真相”に疑問を投げかけるが…。
西夏の兵たちを打ち破った段誉(だん・よ)。やむを得ないことだったとはいえ、彼は人を殺めてしまったことを悔いるのだった。しかし、“追っ手”はそれで全てではなかった。李延宗(り・えんそう)と名乗った西夏の武人は、戦いを避けたい段誉に挑みかかってくる。しかも、王語嫣(おう・ごえん)の見立てでは、その男は一瞬の手合わせの間に、17もの流派の技を繰り出したのだという。「次の動きを読むのは難しい。勝てないわ」――彼女の言葉に、死を覚悟した段誉は…。
喬峯(きょう・ほう)の腕前が見たい――丐幇(かいほう)の者たちを放免をするよう求められた西夏一品堂の頭領・赫連鉄樹(かくれん・てつじゅ)は、そう条件をつけた。顔色を失う喬峯。それもそのはず、この喬峯は阿朱(あしゅ)の、隣に控える慕容復(ぼよう・ふく)も段誉(だん・よ)の変装なのだ。その時、とまどう2人をさらに混乱させる事態が。西夏の兵たちが、彼ら自身の主である赫連鉄樹の使う毒で体の自由を失い、バタバタと倒れ始めたではないか…。
菩提院を守るように命じられた少林寺の僧たち――そのうちの1人・止清(しせい)は、突然、点穴で仲間の僧たちの動きを封じると、菩提院に隠された貴重な書「易筋経」を盗み出した。密かに一部始終を目撃していた喬峯(きょう・ほう)は、建物を出た止清を取り押さえるが、菩提院に集まってきた玄慈(げんじ)方丈たちに姿を見られてしまう。玄慈の掌風をくらって気を失った止清を抱え、少林寺からの脱出を図る喬峯。そんな彼の前に、黒ずくめの怪人物が立ちはだかり…。
阿朱(あしゅ)にせがまれ、喬峯(きょう・ほう)は、ある子供の話を語って聞かせる。実は、それは彼自身の経験であった。優しさと正義感と反骨心――幼き日の喬峯の物語に触れ、阿朱は彼への敬慕の念を深めるのだった。そんななか、喬峯は“英雄大会”なるものが開かれることを知る。“閻王敵(えんおうてき)”の二つ名で知られる天下の名医・薛神医(せつしんい)が、喬峯をいかにして成敗すべきかを話し合うため、江湖の英雄たちを呼び寄せているというのだ…。
「この娘を守ってほしい」。喬峯(きょう・ほう)から丐幇(かいほう)の兄弟たちへの最後の頼みは、阿朱(あしゅ)のことだった。聚賢荘に集った者たちとの縁を切るための酒を飲み、彼らに挑みかかった喬峯は、聚賢荘の荘主である游驥(ゆう・き)と游駒(ゆう・く)らを相手に鬼神の如き強さを見せる。そこへ慕容復(ぼよう・ふく)が。喬峯を助けてくれるよう、主(あるじ)に懇願する阿朱。だが彼は、「私が駆けつけたのは、英雄方と共に喬峯を討ち取るため」と言い放ち…。
“頭(かしら)”とは、一体何者なのか。優れた武芸を誇り、江湖で声望が高く、汪剣通(おう・けんつう)よりは年若い者――“頭”の正体を知りたい喬峯(きょう・ほう)と阿朱(あしゅ)は、鄭(てい)州に住む徐(じょ)長老を訪ねることに。しかし、衛輝(えいき)城にたどり着いた2人の耳に入ってきたのは、徐長老が惨殺されたという話だった。しかも、その凶行さえも喬峯の仕業であると、噂されているではないか。その時、喬峯は衛輝の街角に、譚婆(たんば)の姿を見かけ…。
喬峯(きょう・ほう)の本当の名は、蕭峯(しょう・ほう)――その事実を教えてくれた智光(ちこう)大師もまた、“頭(かしら)”の正体を明かすことなく、息を引き取った。己の出自に絡む恩讐が、多くの人の命を奪う結果となり、何とも言えぬ空しさに襲われる蕭峯。彼は、塞外へ行って狩りや放牧をしながら静かに暮らしてはどうかという、阿朱(あしゅ)の提案に心を動かされるのだった。だが、その前に会っておくべき者がいる。“頭”の素性を知る最後の1人。その人物とは…
守り札と肩に残された“段”の文字――驚いたことに阿紫(あし)は、段正淳(だん・せいじゅん)と阮星竹(げん・せいちく)の娘であった。涙を流して対面を喜ぶ阮星竹の姿を目にし、密かに万感の思いを抱く阿朱(あしゅ)。なぜなら、彼女も2人の娘、阿紫とは姉妹だったのだ。そんな最中、段延慶(だん・えんけい)たちが姿を現す。段正淳を守るため、敵に立ち向かう巴天石(は・てんせき)と大理四大護衛だったが、その戦いの中で褚万里(ちょ・ばんり)が命を落とし…。
段正淳(だん・せいじゅん)の書き残した文字は、“頭(かしら)”の筆跡とは違っていた。阮星竹(げん・せいちく)と話すうちに、自分の考え違いに気づかされる蕭峯(しょう・ほう)。“頭”の正体は誰なのか――仇の姿が、また深い霧の奥に隠れてしまったかのように、彼は感じていた。その夜、段正淳は康敏(こう・びん)のもとへ。彼を追って、阿紫(あし)と阮星竹が、秦紅棉(しん・こうめん)と木婉清(ぼく・えんせい)が、そして蕭峯が、馬大元(ば・たいげん)の屋敷に集い…。
“頭(かしら)”の名前を教えてほしいなら、自分を見つめ、抱きしめて口づけを――康敏(こう・びん)は蕭峯(しょう・ほう)に、そう迫った。そこへ飛び込んできた阿紫(あし)は、康敏を“醜女”と罵り、鏡を突きつける。無残に斬り刻まれた己の顔を見せつけられ、絶叫した康敏は、悲嘆と絶望のあまり、そのまま息を引き取ったのだった。ついに“頭”につながる最後の糸も切れてしまった。仇討ちの望みを絶たれた蕭峯は、失意のうちに阿朱(あしゅ)と約束のした塞外へ向かうことに…。
阿紫(あし)がイタズラ心で持ち出した毒針を、掌風で防いだ蕭峯(しょう・ほう)。しかし、すぐそばにいた阿紫は掌風の直撃を受け瀕死の状態に。急いで医者に担ぎ込んだものの、もう助からないと宣告されてしまう。阿朱(あしゅ)の妹を死なせるわけにはいかない。わずかでも阿紫の命を長らえるため、蕭峯は酷寒の長白山に分け入って、人参を探すのだった。その最中、彼は虎に襲われていた男・完顔阿骨打(ワンヤン・アグダ)を助ける。その縁で、蕭峯は女真族の村に招かれ…。
「まさに100年に1人の逸材だ」――耶律洪基(やりつ・こうき)は、あっさりと自分を解放して去ってゆく蕭峯(しょう・ほう)の後ろ姿を、感嘆の思いで眺めていた。そして、あの傑物をぜひ配下に加えたいと念じるのだった。同じ頃、段誉(だん・よ)は、義兄弟の契りを結んだ喬峯(きょう・ほう)を思い出しながら酒を飲んでいた。人恋しさから、偶然通りかかった僧に声をかける段誉。その僧とは虚竹(こちく)であった。語り合ううちに2人はすっかり意気投合し…。
遼の都で謀反が。楚王・耶律涅魯古(やりつ・デルク)が、父の重元(じゅうげん)を担いで挙兵し、すでに新皇帝の即位を伝える詔書も出されているという。兵力でも劣り、皇太后から家臣の家族までをも人質に取られている耶律洪基(やりつ・こうき)は、絶体絶命の危機に瀕していた。反乱軍は刻一刻と近づいてくる。逃げ出そうとささやく阿紫(あし)だったが、義兄弟となった耶律洪基を見捨てられないと、蕭峯(しょう・ほう)はその場に残り、力を尽くすことを誓うのだった…。
蕭峯(しょう・ほう)は、反乱軍との戦いでの功を認められ、遼の南院大王に。だが、その胸中は複雑だった。耶律洪基(やりつ・こうき)からは南朝――宋の攻略を命じられているが、戦となれば無数の民が命を落とすことになる。恩義と良心との板挟みとなり、その心は揺れていた。そんな折、彼は遼の兵に捕まって連れてこられた宋の民の列を目にする。かわいそうに思い、民を逃がしてやる蕭峯。だが、その中の1人が突然、「死ね!」と叫ぶやいなや、襲いかかってきて…。
星宿派の奥義を体得すべく、阿紫(あし)は鉄丑(てっちゅう)こと游坦之(ゆう・たんし)の体を、まるで器のようにして毒を集めていた。その度に游坦之は毒に苦しめられたが、偶然手に入れた「易筋経」を学ぶことで、何とか命を落とさずに済んでいた。いや、それどころか彼は、自分でも気がつかぬ間に少林寺の秘法を身につけていたのだった。そんななか、段誉(だん・よ)をはじめとする江湖の才子たちのもとに、“聡弁先生”蘇星河(そ・せいか)から奇妙な招待状が届き…。
ケガを負った慧浄(えじょう)と毒にあたった風波悪(ふう・はあく)たちを連れて、薛神医(せつしんい)こと薛慕華(せつ・ぼか)の屋敷を訪れた玄難(げんなん)一行。彼らを待ち受けていたのは、“函谷八友(かんこくはちゆう)”と名乗る面々だった。聞けばその者たちは皆、蘇星河(そ・せいか)の弟子だという。そして蘇星河と、その弟(おとうと)弟子である“星宿老怪”丁春秋(てい・しゅんじゅう)との間には、熾烈な争いを繰り広げた過去があるというのだ。そこへ、当の丁春秋が姿を現し…。
謎の声に導かれ、虚竹(こちく)がたどり着いた先は、山の頂であった。そこには真っ白な髪と髭を長く伸ばし、端然と座る老人の姿が。逍遙派の掌門・無崖子(むがいし)である。謙虚だが正直で気骨のある虚竹の人柄を見抜いた無崖子は、彼の“すべて”を譲り渡す決意を固める。“すべて”とは、無崖子が70年かけて学び、身につけた功力(くりき)のことだ。有無を言わさず虚竹を後継者にしてしまった無崖子。戸惑う虚竹に対し、彼はある者を殺してほしいと言い残し…。
玄悲(げんひ)大師の死因を調べるため、慕容(ぼよう)家の屋敷を探っていた巴天石(は・てんせき)たち。その報告を受けた段誉(だん・よ)は、耳を疑った。墓室に安置されていた慕容博(ぼよう・はく)の棺が、空だったというのだ。「慕容博は生きている?」――段誉は、不意に浮かんだ突飛な考えを一笑に付す気にはなれなかった。一方、1人で気ままに放浪を続けていた阿紫(あし)は、からかい甲斐のありそうな若い僧と出会う。小悪魔に魅入られた哀れな僧の名は…。
三十六洞七十二島の主(あるじ)と斬り結ぶ、慕容復(ぼよう・ふく)と家臣たち。そこに現れた不平道人(ふへいどうじん)の執り成しにより、双方はようやく矛を収めることに。誤解から始まった争いがやみ、立ち去ろうとした慕容復を烏老大(うろうだい)が呼び止めた。烏老大によると、三十六洞七十二島の者たちは数十年来、天山童姥(てんざんどうぼ)の毒に苦しめられているのだという。自分たちに加勢して天山童姥を倒してほしい――助けを乞う烏老大への慕容復の答えは…。
不遜な態度で妙に老成した赤い衣の少女。虚竹(こちく)に北冥神功を授け、八荒六合唯我独尊功の修練を続ける、その不思議な娘の正体は天山童姥(てんざんどうぼ)だった。身につけた奥義の思いがけない“欠点”により、彼女は功力(くりき)を失ったばかりか、幼い娘の姿に戻ってしまっていたのだ。虚竹と烏老大(うろうだい)は不本意ながらも、そんな彼女の護衛役を務める羽目に。同じ頃、天山童姥が根城とする霊鷲宮(りょうじゅきゅう)が何者かの襲撃を受け…。
ついに対峙した天山童姥(てんざんどうぼ)と李秋水(り・しゅうすい)。憎しみが刃のような言葉となり、2人は互いにそれをぶつけ合う。李秋水は逍遥派掌門の証しである指輪を手にするため、天山童姥の親指を斬り落とすという暴挙に出た。天山童姥は、さらに深手を負わされるが、間一髪のところで虚竹(こちく)に救われ、事なきを得たのだった。傷を癒やしながら修練を続けられる安全な所へ――天山童姥が思いついたのは、追う側の考えを逆手に取った意外な場所で…。
天山童姥(てんざんどうぼ)によって、体内に生死符を打ち込まれてしまった虚竹(こちく)。だが意外なことに、天山童姥は生死符の取り除き方ばかりか、生死符を作る方法まで伝授してくれたではないか。その技――天山六陽掌もまた、逍遥派の奥義の1つ。己の意思とは関係なく、虚竹の武功は新たな高みに達したのだった。しかし、いつまでも李秋水(り・しゅうすい)の目を欺くことはできなかった。西夏の皇宮、地下の氷室に潜む2人を取り巻く包囲網は、次第に狭くなり…
天山童姥(てんざんどうぼ)は、固辞する虚竹(こちく)を無理やり霊鷲宮(りょうじゅきゅう)の後継者に据えた。そして無崖子(むがいし)の絵を眺め、「奴ではない」と三度口にして絶命する。絵の女性は、面差しは李秋水(り・しゅうすい)に似ているものの、彼女にはない、目元のほくろが描かれていた。それを見た李秋水は、誰を描いたものかを悟り、語り始めるのだった。一方、阿紫(あし)は、恩人である荘聚賢(そう・しゅうけん)という人物に疑心を抱き始めていた…。
喬峯(きょう・ほう)がその座を辞してから空位となっていた丐幇(かいほう)幇主を決める武芸大会が開かれることに。荘聚賢(そう・しゅうけん)の腕前を知る全冠清(ぜん・かんせい)は、弟分である彼を出場させ、幇主の座に据えようと画策するのだった。そんななか、霊鷲宮(りょうじゅきゅう)で再会し、同じような悩みを打ち明け合った虚竹(こちく)と段誉(だん・よ)は、義兄弟の契りを結ぶ。二日酔いで目覚めた虚竹を待ち受けていたのは、霊鷲宮尊主としての日々だった…。
生死符に苦しむ者たちを救った虚竹(こちく)は、余婆(よば)に霊鷲宮(りょうじゅきゅう)のことを任せ、少林寺へと向かう。それは、自分が育った地への里帰りなどではなく、数々の戒律を破った己を罰してもらうためだった。そんななか慕容復(ぼよう・ふく)は、西夏(せいか)国王が発した婿探しの触れ文(ぶみ)を手に入れる。死を目前にした易大彪(えき・だいひょう)から、丐幇(かいほう)の長老に渡してほしいと託されたものだったが、文を読んだ慕容復は、これは好機だと目を輝かせ…。
鳩摩智(くまち)に求められ、手合わせに応じた玄渡(げんと)は、あえなく敗れてしまった。「国師の拈花指(ねんげし)は、実に見事だ」――玄渡の言葉に顔色を変える虚竹(こちく)。鳩摩智が使ったのは拈花指とは似て非なるもの。それが見分けられたのは、同じ小無相功(しょうむそうこう)を身につけている彼だけだったのだ。「あれは拈花指ではありません」と言い募るも、誰も聞き入れてくれず、業を煮やした虚竹は技を再現して見せる。そんな虚竹に、鳩摩智は挑みかかり…。
人質となった阿紫(あし)を取り戻そうと奮闘する荘聚賢(そう・しゅうけん)――游坦之(ゆう・たんし)だったが、相手が丁春秋(てい・しゅんじゅう)とあっては旗色が悪かった。阿紫を殺されたくなかったら星宿派の弟子になれと迫る丁春秋。荘聚賢はその条件をあっさりと受け入れ、ひざまずく。思いがけぬ出来事に丐幇(かいほう)のみならず、その場に集った名だたる武芸者からも驚きの声が。そして、丁春秋はもう1つの条件を出した。玄慈(げんじ)方丈を殺せ、と…。
段誉(だん・よ)には手心を加えられ、並び称された蕭峯(しょう・ほう)には実力の差を見せつけられた。屈辱の思いに身を焼かれた慕容復(ぼよう・ふく)は、自ら命を絶とうと、首筋に剣を押し当てる。その瞬間、どこからか飛んできた暗器が剣を弾き飛ばしたかと思うと、黒ずくめの男が現れた。その怪人物は慕容復を諭し、叱咤激励すると、蕭峯との手合わせを望むのだった。すると、そこにもう1人の男が姿を見せる。奇妙なことに、その人物も黒装束に身を包んでおり…。
玄慈(げんじ)方丈は戒律を破ったことを告白し、杖責200回の刑に処されることに。もう十分だという周囲の声に耳を貸そうともしない彼を見かねて、葉二娘(よう・じじょう)は身を挺して、刑の執行を止めようとする。だが、それでも玄慈の心は変わらなかった。一方、蔵経閣では蕭(しょう)家と慕容(ぼよう)家の父子が対峙していた。30年前、自らが雁門関(がんもんかん)で巻き起こした悲劇の原因を語り始める慕容博(ぼよう・はく)。それを聞いた蕭峯(しょう・ほう)は激怒し…。
西夏(せいか)へと赴くのは公主を娶(めと)るため――慕容復(ぼよう・ふく)の言葉は王語嫣(おう・ごえん)の心を打ち砕いた。慕容復の狙いは、西夏を後ろ盾として燕(えん)復興を成し遂げること。そう分かってはいても、自分の想いを知っているはずの従兄の非情さに、王語嫣は涙するのだった。そんななか、段誉(だん・よ)のもとに、婿探しの触れ文(ぶみ)が届く。大理と西夏が姻戚関係となることは父・正淳(せいじゅん)の望みであると知り、段誉も西夏へと向かうことに…。