秒速8キロ―― 宇宙(ここ)ではネジすら凶器になる
2075年。サラリーマンである職業宇宙飛行士のハチマキ(星野八郎太)は宇宙ステーションでデブリ(宇宙ゴミ)回収を仕事にしている。自分の宇宙船を手に入れるため、彼は同僚たちとデブリを回収する日々。地球、宇宙ステーション、月の間を、旅客機が普通に行き交う世界で、ハチマキはどう想い、成長していくのか…。
原作:幸村誠。監督:谷口悟朗。シリーズ構成:大河内一楼。宇宙開発が進んだ西暦2070年代では、真空を漂うゴミ「デブリ」が事故の原因として問題となっていた。これを処理する職業についた主人公ハチマキと彼を慕うタナベら、個性的な宇宙の会社員たちを中心に骨太なドラマが描かれる。前半は「職業もの」として諸問題に直面する会社員たちの喜怒哀楽を描き、後半ではさらなるフロンティアをめざす木星往還船を軸にして、人類が宇宙へ出る根源的な意味を問う。卑近な生活の部分から、広大に拡がり続ける志の連なりまで、幅広い人間の営みと可能性が伝わってくる作品だ。宇宙での制動など、細やかな考証に支えられたビジュアルも大きなみどころである【アニメ評論家 氷川竜介】
ハチマキ:田中一成
タナベ:雪野五月
フィー:折笠 愛
ユーリ:子安武人
課長:緒方愛香
ラビィ:後藤哲夫
エーデル:伊藤舞子
ドルフ:加門 良
クレア:渡辺久美子
チェンシン:檜山修之
リュシー:倉田雅世
ギガルト:若本規夫
ナレーション:小林恭治
原作:幸村 誠
掲載:「モーニング」
発行:講談社
企画:内田健二/上埜芳被/松本寿子
脚本:大河内一楼
コンセプトデザイン・設定考証:小倉信也
キャラクターデザイン:千羽由利子
メカニカルデザイン:高倉武史/中谷誠一
美術監督:池田繁美
色彩設計:横山さよ子
撮影監督:大矢創太
編集:森田清次
音響監督:浦上靖夫
音楽:中川幸太郎
テクノーラ社の国際宇宙ステーション“ISPV-7”へ新人がやってきた。彼女の名はタナベ。配属先はデブリ課である。だがそれは周囲から半端者で反抗的な者の集団“ハン課”と呼ばれ、さげすまれる職場だった。しかも先輩にあたるハチマキは、職場にオムツ姿で現れるような最低男で、タナベはショックを受けるが…。
ハチマキの同期であるチェンシンが副操縦士に昇格することが決まった。祝杯をあげたものの、宇宙パイロットとしての親友の出世にハチマキの心中は複雑だった。彼の「マイ宇宙船獲得計画」という悲願が、まったく進展を見せていなかったからだ。そんな時、ハチマキが回収に失敗した小惑星探査機が再び舞い戻ってきた…。
宇宙空間とは常に死と隣りあわせの職場だ。タナベにもいざ事故という時に備えて遺言状を書くよう業務命令が出た。何を遺書に書けば良いのか真剣に悩んでしまうタナベ。そんな時、50年以上も前に宇宙葬にされた航宙士の遺体を載せた棺が戻ってきた。遺族の娘が再び宇宙葬を依頼した時、タナベはその措置が納得できず…。
ハチマキたちのデブリ回収を見学にきた連合議長の息子コリン。高飛車な態度をとるコリンに対し、部外者は禁止だとつっぱねるハチマキ。だが、議長の息子に気を使う上司たちに無理やり受け入れさせられてしまう。同乗していた管制課のクレアが進路変更を指示したその先にあったものを見て、ハチマキは血相を変えるが…。
久しぶりの休暇で月に4日間かけて向かうことになったデブリ課のハチマキ、タナベ、フィー。初めての月旅行にタナベは大喜びだったが、早々に財布を紛失してしまう。そんな中、ハチマキは船内でシアという少女と出会い、宇宙船の話題で仲良しになる。そしてハチマキたちが船に乗って3日目、大事件が発生して…。
ハチマキ、タナベ、フィーはようやく月に到着した。初の休暇と地球の6分の1の低重力で大はしゃぎのタナベ。ハチマキは彼女を滞在用アパートまで連れていく。その一角は実に怪しげな雰囲気で、出迎えてくれた住人も忍者にかぶれた奇妙な人ばかりだった。彼らは、低重力を応用した忍法で次々と戦いを挑んできて…。
足を怪我して治療のため月の病院に入院したハチマキは、そこでベテラン航海士ハリー・ローランドの老いた姿と出会う。そしてもう一人、ノノという少女とも知り合いになるハチマキ。その病院に12年も滞在し、海に憧れを持つノノとすっかり意気投合したハチマキ。そしてハチマキは、彼女の入院している事情を知り…。
月面から宇宙ステーションへ戻ったハチマキたち。ドルフからフィーに管制課へ係長待遇で異動しないかという打診があった。だが、そのフィーが昇進抜擢されるという話はすぐさまデブリ課に伝わってしまう。最初こそ動揺したものの、ハチマキたちはフィーが安心して課を離れて出世できるようにと一計を案じることにして…。
軌道保安庁のギガルトが、保安指導の目的でISPV-7にやってきた。彼は2年前までデブリ課に所属し、ハチマキにとっては先生にあたる。ハチマキというあだ名もギガルトがつけたものだった。そんな中、宴会で泥酔したギガルトの言葉からタナベは、ハチマキとクレアが前につき合っていたことを知ってしまい…。
ユーリはカーネーションを飾ったり、一人宇宙を眺めていることが多い。彼には捜し続けているものがあるようだ。一方、ギガルトの秘密を知ってしまったタナベは大きなミスをおかしてしまう。思いつめたタナベから相談を受けたユーリは、自分自身が大事な人間を喪った時の、まったく何も無くなってしまった気持ちを語る…。
エルタニカ国が独自に開発したEVAスーツの営業のために技術者テマラがテクノーラ社を訪れた。採用試験担当となった同郷のクレアにテマラは親近感を抱く。ハチマキたちもEVAスーツのテストを買って出る。そしてクレアは同郷人の歓声を聞いて本気になり、管制課長の反対を押しきって最終試験を敢行するが…。
“Toy Box”のオーバーホールのため、デブリ課は月面都市に滞在中、タバコで一服しようとしたフィーは、喫煙室の惨状を見て唖然とした。宇宙開発に反対するテロ組織“宇宙防衛戦線”に爆破されたのだ。テロの常套手段に使われるということで喫煙室の撤去が始まり、それでも強引に吸おうとしたフィーは…。
“Toy Box”の破損のため、里帰りをすることになったハチマキ。そこへユーリとタナベもやってきた。ハチマキの母親ハルコに歓待され、一行がくつろいでいると、室内に小型ロケットが突っ込んでくる。それはハチマキの弟、九太郎のしわざだった。ユーリは九太郎の技術に感心して、思わず手助けを始めてしまう…。
新造船“Toy Box II”が配備され、子どものようにはしゃぐハチマキ。そんな彼への自分の気持ちを自覚したタナベはリュシーに漏らす。そんな矢先、ラビィがデブリ課に社内恋愛禁止令を宣告する。愛の持論を語って反発するタナベだったが、ハチマキはふとした気持ちのすれ違いから彼女の不審を招いてしまい…。
ISPV-7の健康診断で、デブリ課員たちは白衣を身にまとったエーデルと出会った。デブリ課で黙々と事務を続ける派遣社員の彼女は空き時間に他部門でも勤務していたのだった。お互いの気持ちをはっきり意識したハチマキとタナベはデートに出かけ、ついにホテルの部屋へと入る。そこで二人は妙な男と鉢合わせするが…。
デブリ回収中に、ハチマキは宇宙空間で孤立状態になってしまった。救出されてメディカルチェックを受けることになったハチマキ。奇跡的に放射線の影響は見られなかった。ところが、最終チェックで感覚遮断室に入った途端、ハチマキの様子は一変し、パニック状態に陥る。ハチマキは空間喪失症にかかっていたのだ…。
エンジン開発者で木星計画担当官のロックスミスが訪ねてきた。ハチマキの父親ゴローをフォン・ブラウン号の機関長としてスカウトにきたのだ。父の行方を知らないと告げるとロックスミスは帰ってしまう。その途端、ゴローがハチマキの前に姿を現す。そんな時、月面のエンジン研究施設が爆発する大事故が発生して…。
月面事故の影響は大きく、テクノーラ社にも人事異動が生じた。新事業部長のノーマンは着任早々、収益重視という名目でデブリ課に解散を宣告し、課員たちの間に波紋が広がる。ところが、木星行きに取りつかれたハチマキだけは気にしていなかった。そんな矢先、漂流宇宙船を救出して欲しいという通信が入るが…。
木星往還船“フォン・ブラウン号”乗組員の一次試験を受けるためにハチマキは会社を辞めて背水の陣で臨んでいた。受験者の中には、テクノーラ社からきたチェンシンや軌道保安庁を辞めたハキムなどもいた。基礎体力試験、筆記試験が終わり、水中作業試験がスタートした時にハチマキの前で大きなアクシデントが発生して…。
木星往還船の試験は、その舞台を宇宙空間に移していた。ハチマキはEVAテストを優秀な成績でクリアする。そしてハチマキはハキムたちと合計四人でチームを組んで閉鎖環境試験を受けることになる。一方、デブリ課には新人が配属されてきたが、それは思いもよらない人物だった。クレアが転属命令を受けたのである…。
ついにハチマキはフォン・ブラウン号へとやってきた。第三次試験が開始されるのだ。一方、やっとのことでハチマキに連絡を取ることができたタナベであったが、突き放されたような言葉に激しいショックを受ける。そんな矢先、月周回軌道にあるデブリ回収の指示が出た。気を取り直してミッションに出たタナベだったが…。
デブリ課は月面へと異動になった。同じ月ではハチマキがハキムのエンジン爆破事件の取り調べを受けていた。そしてハチマキは街で偶然ラヴィや課長らと再会し、試験が終わったら病院まで会いにこいというギガルトの伝言を聞く。病院でハチマキはノノとも再会し、ギガルトから託されたというデジタルカメラを受け取るが…。
月ステーションでは、初の連合評議会が開催されようとしていた。一方、タナベは月軌道上のフォン・ブラウン号に向かう。その目的はハチマキの真意を確認するためだった。そんな中、宇宙防衛戦線はついに蜂起を開始した。連合評議会の会場には宇宙防衛戦線から通信が入った。ついに明らかになったテロリストの目的とは…。
テロリストの目的は、フォン・ブラウン号を月面の静かの海市へ落下させることだった。その船内ではハチマキがハキムに銃を突きつけたままであった。引き金を絞ろうとするハチマキ。その頃、タナベは船内で傷ついたクレアを発見していた。救命カプセルでフォン・ブラウン号から脱出し、月面に着陸する二人だが…。
テロ事件から半年後、完全に修復されたフォン・ブラウン号の乗員発表が改めて行われた。そこには合格したハチマキの姿もあった。だが、彼は終始うわの空でどこかその様子はおかしい。タナベが会社を辞めて地球に戻ったことを初めて知ったハチマキは、ある夜にふとしたことがきっかけで彼女の遺言状をのぞき見てしまい…。
さらに半年の訓練期間を経て、フォン・ブラウン号の出発する日が近づいてきた。タナベもリハビリの努力を重ねた結果、宇宙に戻れるまでに回復していた。デブリ課員のはからいで、二人きりで宇宙に出たハチマキとタナベ。そこでタナベに結婚しようと告白するハチマキ。そしてフォン・ブラウン号出港の日がやってきて…。